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Open Access Week 2015 特別企画 三者連続研究者インタビュー

Open Access Week 2015 特別企画として、三者連続研究者インタビューを実施いたしました。

2番バッターとして口腔科学研究センターの山口 朗 先生にインタビューさせていただきました。

Q.現在の研究に取り組む契機となったことを教えてください。

 私は、長い間、骨代謝の研究を行っています。本学を1974年に卒業し、その後、東京医科歯科大学の大学院歯学研究科に入学し、口腔病理学を専攻しました。大学院の間は、病理解剖や病理診断学の勉強に追われ、研究はほとんどできませんでした。大学院修了後、昭和大学歯学部で吉木周作教授が主宰する口腔病理学教室の講師になりました。
 当時、昭和大学歯学部生化学教室の教授であられた須田立雄先生が、スペースシャトルを用いた我が国初めての宇宙実験「FMPT第1次材料実験ふわっと’92」の搭載実験に応募し、それが採択されました。その実験の内容は、受精卵(鶏胚)をスペースシャトルに搭載し、1週間宇宙飛行を行った後に鶏胚の骨・軟骨の変化を解析するというものでした。当時のスペースシャトル内ではマウス・ラットを飼育することができなかったので、鶏胚ならば餌の投与や排泄物処理に問題がないということが採択された重要なポイントだったようです。そして、私が鶏胚の脛骨の形態学的解析を担当することになりました。宇宙実験の前に日本で鶏胚の各発育ステージの組織標本を大量に作製し、事前準備を行い、宇宙実験の前後1ヶ月ほどフロリダのKennedy Space Center (KSC)に滞在して実験を行いました。鶏胚の実験は日本人初の宇宙飛行士である毛利衛さんが担当し、1992年9月12日23:23(日本時間)に発射されたスペースシャトル「エンデバー」に乗って、7日22時間30分の宇宙飛行を行って、9月20日にKSCに無事に帰還しました。非常に貴重な体験をしました。
 このような経験が骨代謝研究を始める大きなきっかけでした。また、当時の昭和大学では病理と生化学の教室で骨代謝に関する多くの共同研究を行っており、形態学と機能的解析の両方により骨代謝の研究ができる環境にあったことも骨代謝研究を進める大きな要因となりました。

Q.現在取り組んでいる研究について教えてください。

 私は17年間昭和大学でお世話になり、その間にアメリカ留学を経験し、1998年から長崎大学歯学部口腔病理学講座を担当することになり、2004年からは東京医科歯科大学歯学部口腔病理学分野を担当し、今年の4月から本学口腔科学研究センターの客員教授としてお世話になっております。この間、一貫して骨代謝の研究を行ってきました。現在、私が一番興味を持っているのは、脊椎動物が水から陸に上陸した時に、骨格がどのように変遷してきたのかを知ることです。我々人間は常に1Gという重力の負荷に抵抗して、きちんと座ったり、寝たり、歩いたりすることができるのです。しかし、水の中だと重力は6分の1位といわれています。さらに水の中には必ずカルシウムが存在しているため、水の中の生物はカルシウムを体内にそれほど蓄えなくても生きていけます。しかし、我々が住んでいる地上では空気中にはカルシウムが無いため、体の中にカルシウムを蓄える構造・機能が必要になってきます。それが骨の重要な役割ではないだろうかと考えています。つまり、我々人間は、地上で快適に生活するために重力に抵抗できる強靭な支持組織としての骨格と体内のカルシウム貯蔵庫としての骨格を獲得してきたと考えられます。本学で研究の機会をいただきましたので、今後、生物の進化の過程で骨がどのように変遷してきたかということに取り組みたいと考えております。このような研究は、歯学研究には直接関係ないと思われがちですが、インプラント埋入後の力学的負荷の問題点や骨粗鬆患者さんの歯科治療などにも関係してきます。今までは、教育、病理診断、大学院生の研究指導などに追われてきましたが、本学に移ってからは比較的時間があるので、あまり行われていない研究にチャレンジしたいと考えています。

Q.思い出の研究について教えてください。

現在までに多くの研究者の方や大学院生と一緒に研究を行ってきましたので、その一つ一つが私にとっては貴重な思い出です。強いて述べるとすると2つあります。いずれも実験をしていて思いがけず何かを発見したというものです。1つめは、Bone Morphogenetic Protein(BMP)についてです。BMPを筋肉の中に植えると骨形成が誘導されますが、そのメカニズムはよく分かっていませんでした。私たちは、まず私が樹立した骨芽細胞、脂肪細胞、筋肉への分化脳を保持した未分化な細胞にBMPを添加しました。BMPを添加することで骨芽細胞への分化が促進されるだろうという予想で行った実験で、他の効果はあまり考えていませんでした。実験を行ってみると、確かに骨芽細胞の分化が促進されていました。しかし、驚くことにBMPを添加すると筋肉の細胞がなくなっていることに気がつきました。この結果から、さらに研究を進め、最終的にはBMPは骨芽細胞の分化を促進するとともに筋肉の分化を抑制してそれを骨芽細胞へと分化転換させることを証明しました(J Cell Biol 111:681- 687, 1991:被引用回数562, J Cell Biol 127:1755-1766, 1994:被引用回数977)。
 もう1つは、骨芽細胞の分化を決定するマスター遺伝子(親分遺伝子)の発見に関するものです。昭和大学で研究をしている時期に、突然、当時、大阪大学医学部第三内科助手の小守壽文先生(現在は長崎大学歯学部細胞生物学教授)から電話をいただき、ある遺伝子のノックアウトマウスを作成したが骨が変なので一緒に解析をしていただきたいという依頼を受けました。解析した結果、そのマウスでは骨が全く形成されていなかったことを発見しました。初めて「骨なしマウス」の標本を見たときは鳥肌が立つような驚きで、その結果をすぐに小守先生に震えながら電話でお伝えたことを覚えています。つまり、ノックアウトした遺伝子(Rinx2)が骨形成のマスター遺伝子であることが明らかになった瞬間でした。その結果は、雑誌『Cell』に掲載され、表紙になりました[CELL 89:755-764,1997:被引用回数2465]。このような大発見に協力できたことは私の研究生活にとって極めて重要で、貴重な体験でした。
 これらの研究は骨代謝研究のブレークスルーとなった研究ですが、当初から結果を予想していたわけではありませんでした。私たちが行うレベルの研究では、世界の多くの人が考えているので予想した結果が出て当然です。重要なことは予想した結果が出なかったときです。特に、技術的手技に問題がない場合は、その結果の裏に重要なメカニズムの存在が潜んでいる可能性があります。皆さんも、予想した結果が出なかったときは、すぐに諦めずに、冷静にそのデータを見つめ直してみてください。大発見が潜んでいるかもしれませんよ。

Q.オープンアクセスについてご意見、感想をお願いします。

オープンアクセスの雑誌は、非常に便利でよいと思います。例えば自宅や出張中などに急に読む必要が出た場合にはとても便利です。すべての雑誌がそうなれば良いと思いますが、現状では難しいと思います。今の時代、大学の中だけではなく、大学以外の場所で研究に関する情報取得の必要性が多いので、とても良いと思います。また、オープンアクセスの雑誌は査読が甘いとも言われているようですが、それは雑誌のレベルによって様々だと思います。ある程度質の良い雑誌で、皆のために情報提供しようという目的でオープンアクセスのものと、一方でレベルの低い雑誌は、多く引用してもらう目的でオープンアクセス化しています。多くの人の目には触れますが、やはりレベルの低い雑誌の論文を引用することは多くありません。インパクトファクターも重要ですが、やはりどのくらい引用されるかということの方が論文としては価値があるので、ある程度レベルが高くて、オープンアクセスにしている雑誌、例えば『PLOS ONE』などは良いと思います。皆、最初はインパクトファクターが高い雑誌に投稿すると思います。Natureでも被引用数が少ない論文もありますし、インパクトファクターが低くても被引用数が多い論文が多く収載されている雑誌もあります。たとえば『Biochemical and Biophysical Research Communications』のインパクトファクターは低いですが、ノーベル賞受賞論文などが収載されています。『Biochemical and Biophysical Research Communications』は速報誌ですから、アクセプトまでの時間が非常に短いので、研究結果が他のグループと競合しているときなどは私たちも投稿しています。

Q.図書館に期待することがあればお願いします。

雑誌などはデジタル化してきているので、そういった観点でみると、場所としての図書館は必要がなくなってくるのかもしれません。ですが、古い教科書などの書籍の保存に関しては非常に重要な存在だと思います。特に、本学は歴史のある大学ですので、貴重な蔵書も多いと思うので、図書館の存在価値は高いと思います。また、最近の図書館では電子情報の管理ということも重要な役割だと思います。その点に関して、本学でもWeb of Scienceが使用できれば良いと思います。(補足:Scopusは導入されています。)そういったデータベースで、自分たちが情報発信した論文がどのくらい世界的に引用されているかを認識しておくことは重要です。

Q.若い研究者や学生にお勧めする本があればご紹介ください。

1. 脊椎動物の進化様式
我々を含めた脊椎動物が水中と陸上でどのように発展してきたのか歯や骨格を中心に書かれた本で、進化の観点から歯/骨を理解するのに非常に参考になります。興味のある方は是非一読を。

2. 進化医学:人への進化が生んだ疾患
京都大学医学部内科教授、京都大学総長であられた井村裕夫先生が書かれた本で、進化に刻まれた分子記憶が明かす病気のメカニズムに迫り、疾患をより深く理解するのに役立つ本です。

素晴らしいことに、これらの本は本学図書館に蔵書としてあるそうです。しかし、残念ながら未だ貸し出したことがないようです。国家試験の対策で疲れた学生さんや研究に疲れた大学院生も息抜きで、これらの本にも目を通してみてください。新たな歯学の世界が観えるかも。。。。。


脊椎動物の進化様式
L.B.ホールステッド
法政大学出版局



山口先生お忙しい中ご協力ありがとうございました。