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リポジトリ登録1000件目記念インタビュー

東京歯科大学学術機関リポジトリの登録件数が2010年3月29日に1000件を突破いたしました。

1000件目のコンテンツは口腔健康臨床科学講座の齋藤淳先生の論文でした。

Learning climate in dental hygiene education: a longitudinal case study of a Japanese and Canadian programme.
A Saito, S Sunell, L Rucker, M Wilson, Y Sato and G Cathcart.
Int J Dent Hyg. 2010 8(2):134-142.

http://ir.tdc.ac.jp/irucaa/handle/10130/1215
http://dx.doi.org/10.1111/j.1601-5037.2009.00411.x

リポジトリ登録1000件目を記念して齋藤淳先生にインタビューさせていただきました。

Q.「Learning climate in dental hygiene education: a longitudinal case study of a Japanese and Canadian programme.」はどのような内容ですか?また、この研究を始められたきっかけを教えてください。

故郷の仙台市で父と開業医として診療するとともに、宮城県歯科医師会立の宮城高等歯科衛生士学院(日本初の3年制導入校)で教務部長を務めていました。志のある歯科衛生士専任教員たちと新たな歯科衛生士教育を目指すなかで、北米の歯科衛生士教育の現場に学生を連れて行きたいという思いがありました。そこで、2004年にカナダのブリティッシュコロンビア大学やバンクーバーコミュニティカレッジと相互研修を始めました。その交流を通じて、共同で研究をすることとなりました。研究の内容は、歯科衛生士の学習環境を幅広く捉え、学生がどのように評価しているかを検証するものです。学習環境の10領域について4年間、継続的に評価を行いました。毎年の評価をもとに介入計画を策定して改善していきました。

Q.現在進行中の研究について教えてください。

私は歯周病を専門とする臨床家でありますが、歯周病原菌をターゲットとして基礎的な研究を再開したいと思い、微生物学講座の石原先生にご指導いただき、Porphyromonas gingivalisの研究をしています。P. gingivalisは主な歯周病原菌ですが、歯周病原菌は、抗菌薬を使用したり、スケーリング・ルートプレーニングなどの治療をしても、局所に細菌が再定着する場合があります。また、歯周病は全身疾患との関係が重要視されており、動脈硬化症のような心血管系の疾患との関係についても研究されています。従来、動脈硬化症は、脂質異常症やメタボリックシンドロームとの関連で捉えられていましたが、近年の研究で、感染症が関与してると言われてきています。心臓の血管からP. gingivalisなどの歯周病原菌が発見されていますが、これらは、心臓血管の内皮細胞に様々な作用をして動脈硬化症の進展に関与していると考えられています。歯肉上皮細胞や、心臓血管の内皮細胞などの宿主細胞にどのように侵入するのかを観察したり、複数の菌がいた場合と単独で菌が細胞に入る機序とがどのように異なるかを検討しています。

Q.リポジトリに掲載された論文をどのような人に読んでもらいたいですか?

出版社が提供する学術雑誌にだけ論文が掲載された場合は、研究所や教育機関の関係の人にしか見られないと思います。リポジトリに登録することで幅広い人々の目に触れる可能性ができますし、そういった方々に研究の成果を読んでいただきたいです。

Q.東京歯科大学学術機関リポジトリについてご意見、感想をお願いします。

これまでは、学術論文は、閉じられたアカデミック環境内でしか読むことができないとか、制限があったものこそクオリティが高いとする考えもあったかと思います。しかし、最近では、 BMC(Biomed Central)などのOA(Open Access)の雑誌に著名な研究者が投稿するような傾向も出てきました。掲載費用等の問題はあるかと思いますが、OAに対しての認識は高まりつつあると思います。OAは掲載された瞬間に、インターネット環境があれば、誰もが読むことができるという点で非常に画期的だと思います。以前、水道橋病院の歯科衛生士さんと一緒に実施した研究を『BMC oral health 』に投稿しましたが、これは私たちの取り組みを、peer reviewという形で、学外の研究者・臨床家の評価を受けながら、OAを実現したかったという狙いもありました。

Q.オープンアクセスについてご意見、感想をお願いします。

今は、単科大学は厳しい時代にあるわけですが、だからこそ、内容はもちろん、自分たちの研究成果を発信する力が問われているかと思います。とくに旧帝大系の国立大学の方たちは研究も素晴らしいと思いますが、発信能力も優れていると思います。自分たちの取り組みを社会に発信することは、単科大学としては行き残りをかけて重要と認識しており、OAは効果的な方略の一つだと思います。

Q.研究で使用しているデータベースやツールなどがありましたらご紹介ください。

ScopusやZoteroを使い始めています。新しいツールは研究の記録に役立ちますし、文献検索・記録の仕方も変わってきていると思います。千葉キャンパスと水道橋病院では情報量がどうしても異なりますし、図書館の活用や文献検索は重要だと思います。水道橋病院では歯周病の勉強会のなかで抄読会を実施していますが、臨床志向の若い先生方にも文献検索は必須となっています。

Q.移転後の図書館に期待することがあればお願いします。

水道橋病院においてもオンラインジャーナルが見られることは重要ですし、非常に重宝しています。予算的には厳しいでしょうし、今後はオンラインの雑誌が増えるだろうとは思いますが、購読雑誌数の維持も検討して欲しいです。また、学生にとっては「図書館=アカデミック」な環境として非常に重要です。質の高い大学は,質の高い図書館もそれを支える重要な柱となっています。学生、教職員の利便性、開館時間等も考慮していただきたいです。

Q.若い研究者や学生にお勧めする本があればご紹介ください。

海外の大学、高校ではどんな教科書を使っているか見て欲しいです。大学やリベラルアーツ、教育の重点の入れ方などの違いに気づくと思います。歯科大学としては歯科医師国家試験という要素はありますが、リベラルアーツも大学が大学たるゆえんとして非常に重要だと思います。アメリカの大学に留学中に同級生の女の子が、心理学の入門的な教科書だったのですが、「この教科書は、誰かに他のものと交換してと言われても絶対に手放さないくらい大好き!」と言って愛着を持っていたことが非常に印象に残っています。日本の教科書も変わってきているかとは思いますが、海外の教科書も面白いと思うので手にとってみることをお勧めします。

また、以前読んだ本のなかでは、朝河貫一の「日本の禍機」に感銘を受けました。明治時代にアメリカのエール大学教授だった朝河先生が、日露戦争後の祖国日本や国民の奢りを憂い、批判と進言を続けました。しかし,その後,わが国がどういう道を進んだかは,私が述べるまでもありません。本のなかに込められた朝河先生の想いは、きっと若い大学生や先生方の心にも響くものがあるかと思います。



齋藤淳先生お忙しい中ご協力ありがとうございました。