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リポジトリ登録2000件目記念インタビュー

東京歯科大学学術機関リポジトリの登録件数が2012年2月9日に2000件を突破いたしました。

2000件目のコンテンツは市川総合病院消化器内科の岸川 浩先生の論文でした。

Fasting gastric pH of Japanese subjects stratified by IgG concentration against Helicobacter pylori and pepsinogen status.
Helicobacter. 2011 Dec;16(6):427-33.

http://ir.tdc.ac.jp/irucaa/handle/10130/2537
http://dx.doi.org/10.1111/j.1523-5378.2011.00868.x

リポジトリ登録2000件目を記念して岸川 浩先生にインタビューさせていただきました。

Q.「Fasting gastric pH of Japanese subjects stratified by IgG concentration against Helicobacter pylori and pepsinogen status.」はどのような内容ですか?

胃粘膜にピロリ菌が感染し胃粘膜の萎縮の程度が進行するにつれて胃癌の発生率が高くなることが知られています。また胃粘膜の萎縮を伴う症例において、ピロリ菌の抗体価が低い症例はピロリ菌の抗体価が高い症例よりも胃癌発生のリスクが高いことが疫学的に報告されてきました。これは萎縮が進行していくにつれてピロリ菌が胃粘膜で生きていくことが出来なくなりピロリ菌の量が逆に減ってきて抗体価が低下するからであろう、と想定されていました。今回の論文は、このことをピロリ菌の抗体価と酸分泌の関連を解析することで確認した、という内容になっています。

Q.この研究をはじめられたきっかけは何ですか?

研修医の時に出張した病院で、所属する部長の先生が臨床研究をコツコツと行い発表しているのを間近で見て、自分も消化器内科の臨床医として働きながら何らかの情報を発信できる医師になりたいと思っていました。 噴門部胃癌の発生と関連がある胃腔内の硝酸塩/亜硝酸塩濃度が血中の硝酸塩/亜硝酸塩濃度と相関することから、血中の硝酸塩/亜硝酸塩濃度が、これまで有用なマーカーがないといわれてきた噴門部胃癌のマーカーとしてある程度使えるのではないかという論文(Digestion 2011;84: 62-9)を書いた時に、酸分泌とペプシノーゲン、ピロリ菌の関連からデータを解析してみようと思ったことがこの論文を書いたきっかけです。

Q.現在進行中の研究について教えてください。

どうしたら簡便に胃癌のhigh risk群を同定できるのかということをいくつかの内視鏡所見やNBIという特殊光を使った所見を手がかりにして検討を行なっています。 当院には口腔がんセンターがあり、多くの口腔がんの患者様が通院、加療されています。その特徴を生かして口腔がんの患者様に大腸内視鏡を行わせて頂き、大腸ポリープなどの腫瘍性病変の頻度が高いかどうかを検討する、という口腔がんセンターとの共同研究も進行中です。歯科と医科が一緒にいる病院は多くはないので、本学ならではの研究だと思っています。 また、以前に小腸上皮細胞を使って基礎研究をしていたことがあるので(Alcohol Clin Exp Res 2005; 29: 2116-22, Peptides 2009; 30: 906-12)、小腸疾患にも興味があります。最近小腸内視鏡、カプセル内視鏡が当院に導入され、急速に症例数を増やしていますので近い将来、臨床研究を始めたいと思っています。 いずれにしろ、臨床研究は周囲の方々の助けなしにはできません。医師、歯科医師の先生方以外にも内視鏡中に検体を集めてくださる看護師さん、検体の処理を行なっていただく研究員さん、電子カルテの情報を抽出していただく事務の方、広い意味では時間をかけて心置きなく論文を書くことを暖かく見守ってくれた自分の家族などの周囲の人達の協力が必要です。 また、患者様に負担なく、日常臨床に支障のない範囲で、周りの皆さんに少しずつ協力してもらいながら、きちんと倫理委員会を通したデータを使い、そして自分が無理なく楽しめる範囲で、ということを私の臨床研究のコンセプトとしています。

Q.リポジトリに掲載された論文をどのような人に読んでもらいたいですか?

できるだけわかりやすく書いたつもりですので、私の専門である消化器内科の医師だけでなく、関連する領域である消化器外科医、集団検診に興味をもつ方たち、また医科や歯科の学生さん、何らかのヒントを求めて論文を検索している全く違う分野の研究者にも読んでもらいたいと思っています。

Q.東京歯科大学学術機関リポジトリについてご意見、感想をお願いします。

非常に使いやすいと思います。原稿を提出すると、素早く公開されることも熱意が感じられます。東京歯科大学の研究者の論文を図書館の方で検索して、提出を促すメールを送ることを行なっておられるので今後リポジトリの数が増えていくのではないかと期待しております。またリポジトリには膨大な論文が搭載されているので、例えば“caries(う蝕)”などのキーワードを入力することでリポジトリ内での論文を検索できると、さらに良いのではないかと思います。

Q.オープンアクセスについてご意見、感想をお願いします。

オープンアクセスによって論文の引用率が高まるとされており、とても良いことだと思います。また別刷りを請求されたときにも本学のリポジトリを教えると簡単です。 しかし例えばPubMedで検索した時に、本当にその論文がオープンアクセスで全文読めるのかということが一目で分からないという点などが少し不便かなと感じます。

Q.研究で使用しているデータベースやツールなどがありましたらご紹介ください。

実際に利用するのはPubMedが多いのですが、引用文献の検索や著者検索でScopusもよく利用します。また学会発表や日本語の症例報告、そして臨床の情報をとにかく早く得たい時などに医中誌Webも利用します。Cochrane Libraryも現在は自宅から利用できることもあって、時々利用しています。ただ、病院に行かないとScopusや医中誌Webなどにアクセスできないので、自宅からも利用出来たらいいなと思うことがよくあります。

Q.図書館(市病図書室、移転する図書館本館など)に期待することがあればお願いします。

図書館の文献検索の講習会に何度か参加したのですがとてもわかりやすく有用と思います。しかし文献検索の方法はある程度個人の“癖”のようなものがあり、講義を聞いてもすぐに忘れてしまいます。出来ればもう少し頻回に講習会を開催して頂けると良いかなと思います。また予算の関係上難しいとは思いますが、ダウンロードできるジャーナルの数は多いほど検索しやすいので可能な限り多くしていただけると便利です。さらにそれを自宅から見られたら有難いですね。

Q.若い研究者や学生にお勧めする本があればご紹介ください。

論文を書くときに私はこういうものを使って書いています、というコンセプトでまずは2冊おすすめします。

1. SPSSで学ぶ医療系データ解析
臨床医が臨床研究を行うときに最もネックになるものの1つが統計の知識です。臨床研究で得られるデータの多くは無味乾燥な数字の羅列ですが、これらをどのように解析し、結果をどう解釈するかを考えることではじめて血の通ったストーリーが生まれてきます。本書には統計の知識のない読者を対象に、データの解析方法、解釈の方法などについて比較的わかりやすく書かれてあります。本書は本来SPSSという統計ソフトの解説本なのですが、このソフトがなくても多変量解析以外であれば本書とExcelベースの安価なソフトでも十分に解析できるものも多いと思います。

2. 医学薬学英文活用辞典
論文を書くときに問題となるもう1つの点が英語の問題です。自分で最初から英文を全部書こうとせずに、なるべくネイティブの論文の英語を参考に英文を書くようにしていますが、当然自分で考えて書かなければならない部分がほとんどですので、そのようなときにこの本をよく利用します。この本は例文がたくさん書かれていて、またCDがついているのでパソコンで論文を書くときにも便利です。

3番目に、最近読んで面白かった本をおすすめします。

3. 錯覚の科学
著者たちはバスケットボールの試合をしている短いビデオを見せて片方のチームが何回パスをしたかを数えてもらうという実験をしました。実はこのビデオの中でゴリラの着ぐるみを着た学生が9秒間出てくるシーンがあるのですが、参加者や行う場所を変えてもいつも約半数の人はゴリラに気が付きませんでした。本書は数えることに熱中すると、とても大きな見落としが生じるというイグ・ノーベル賞を受賞したこの研究内容など、“人の錯覚”について書かれています。日常臨床では錯覚に惑わされることが多々あります。私たち消化器内科医は内視鏡検査を行いますが、例えば内視鏡の見落とし例の中には後で見返してみると明らかに病変が見えてくるものもあります。また外来や病棟で診察をする時、研究のアイデアを考える時にも私たちの脳は何らかの錯覚から逃れることは出来ません。この本はそんな人の錯覚とはいかに重大であるかということを気づかせてくれる本です。



医学薬学英文活用辞典
石岡 卓二 日本コンピュータサイエンス学会
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錯覚の科学
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岸川 浩先生お忙しい中ご協力ありがとうございました。